『あっ』

 ドキドキしていたら、不意に竿が強い力で引っ張られた。川に引きずり込まれそうになる明日香だが、ジェイルの腕がそれを阻止した。

『落ち着け。獲物だ』

 ジェイルが腕に力を込めると、竿がしなる。明日香も彼に力を貸す気持ちで必死に引っ張り上げる。

 数秒の格闘の末、水面から大きな魚が顔を出した。跳ねる水しぶきがふたりの顔を濡らす。

『よし!』

 地上に上げられた魚がどてばたと跳ねた。

『やったあ!』

 明日香も飛び跳ねて喜んだ。元の世界では釣りなんて全く興味なかった。けど、獲物が釣れるとやはり嬉しかった。

 そんな明日香が異世界に早く馴染めたのは、元の世界との共通点が多いためだ。

 日は東から昇り、西に沈む。夜には月が出る。鶏やヤギなど、元の世界にも生息する動物が同じ姿でいる。人間の生活サイクルも一緒。朝起きて、昼活動する。

 夜は早くに夕食をとり、暗くなったらすぐに就寝。なにせ、電気というものがない世界だ。それまでのように、ネットやゲームで無駄に夜更かしはできない。携帯の電源など、すでに切れてしまった。

 最初は文明の利器を使えない、不便な世界に四苦八苦していた明日香だが、この生活を続けていくうち、肌がつるつるになっていることに気づいた。