「わああ」
暗闇にいる敵から悲鳴が聞こえた。
「兵士たちに助けられましたな」
バックスは指示を出されていないのに射撃を開始した兵を褒め、にっと笑った。まるで、無能な王をあざけるように。
「撤退!」
しわがれた号令が響くと、敵は足並みそろえて撤退し始めた。バックスも素早く闇の中に紛れる。
「待てっ」
追おうとするジェイルを、兵士たちが抱きつくようにして止めた。
「早く、早くお戻りを、陛下。このままではあの者たちにシステインが略奪されてしまいます」
懇願されて、ジェイルはやっと剣をおさめた。
「くそっ!」
吐き捨てると、彼はやっと自分の兵士たちに向き直った。
「助かった、皆の者。今からシステインに向かう!」
「おう!」
素早く荷物をまとめ、ジェイル一行は馬を引き、闇の中を駆けだした。
(アスカ、待っていろ。きっとすぐに見つけ出してやる)
そして、システインをバックスのいいようにさせるわけにはいかない。ジェイルは怒りに燃えていた。眠気は感じなかった。
辺りが明るくなってくると同時、馬に飛び乗って疾走した。通常三日かかる道のりを、彼らは一日で乗り越えたのだった。