「バックス……お前が裏切り者だったのか」
敵を指揮した白髪のバックスを、ジェイルはにらみつけた。彼の父親くらいの歳の宰相が微笑むと、顔の表面に不気味な皺が寄る。
「アーマンドをはめたのも、最初に明日香を襲ったのもお前か」
答える代わりに、薄く笑みをたたえるバックス。ジェイルの中にふつふつと怒りが湧く。
「前国王や王子たちを戦乱に乗じて始末できたと思ったら、あなたとアスカさまが現れた。私にとっては邪魔でしかなかった」
バックスが小型の銃を構えた。ディケーターの結婚祝いの中にあったものだ。火縄銃の半分くらいの長さのそれが、ジェイルに向けられる。
「なんだと……」
父や兄たちの死が、バックスの策略よるものだったとは。ジェイルの脳裏に、死に際の父の姿がよみがえる。病死に見えたが、実は毒を盛られていたのか。
そして、自分から容疑の目をそむけるため、ビアンカに想いを寄せるアーマンドを下手人に仕立て上げた。
「アスカを川に突き落としたのは、お前の手下か」
「もちろん。一度の痛み分けでアスカさまに不信感を持った者は少なくありません。取り込むのは簡単でしたよ」
「貴様……!」



