トリップしたら国王の軍師に任命されました。


──バスッ!

 背後でテントに何かが衝突したような音がして振り返る。小動物でも当たったのかと思ったが、テントの幕に何かが突き刺さっていた。そこから小さな炎が穴を広げていく。

「敵襲! 敵襲―!」

 兵士の声が外で聞こえた。

 このままではテントの中で蒸し焼きになってしまう。ジェイルは剣をつかみ、外に出た。

 護衛の兵士たちがテントの周りを囲んでいる。その外側に、火の玉が並んでいた。矢じりに火をつけているのだろう。敵の姿は暗闇で見えない。

「何者だ」

 ジェイルの問いに答える者はいない。兵士たちは盾を持ち、ジェイルの前に壁を作る。

「バックス、バックスはどこだ」

 宰相の名前を呼ぶが、いつも傍に控えているはずの彼がいない。ジェイルが不審に思うと同時、敵の声が飛んだ。

「放て!」

 火の矢がヒュンヒュンと空を切ってジェイルに向かってくる。兵士の盾がそれを防ぎ、防ぎきれなかった分はジェイル自ら剣で叩き落とした。

「今の声は……」

 矢は背後のテントに何本か突き刺さり、そこから炎が広がって辺りを照らす。次の矢を番えて、弓が軋む音が聞こえてきた。

「バックス、そこにいるのか?」

 張り上げたジェイルの声に、周りが一斉に息を飲む。一瞬の静寂。

「……たったひとことで私の声だと見抜きましたか。さすがは国王陛下」

 闇の中から、ひとりの男が現れた。