トリップしたら国王の軍師に任命されました。

「確認しに行くわ。案内して。あと何人かついてきてちょうだい」

 近くにいた兵士を三人見繕い、若い兵士と明日香を含めて五人で川が見える場所まで向かう。案内されたのは、雑草や蔦が茂った崖の上だった。

「どこに舟なんか見えるんだ?」

 明日香と兵士たちで目をこらす。望遠鏡を使うも、舟らしきものは見当たらない。

「たしかにここで見たんだろうな」

 先輩兵士に見下ろされ、若い兵士は肩をすくめた。

「おかしいなあ。たしかに見たんですけど……」

「ディケーターさんたちが訪ねてきたのかもね。海賊の舟は通常の舟よりよっぽど早いらしいから」

 崖の下に流れる川は幅が広く、流れの勢いは強いように見えた。明日香のところまで水音が聞こえてくる。

「見当たらないんじゃ仕方ない。王妃さま、戻りましょう」

 兵士たちは歩き出す。城に帰ってから、川周辺に調査隊を出した方がよさそうだ。

 だけど、何かが気になる。明日香は崖から身を乗り出し、もう一度川を見渡した。そのとき。

──ドン。

 背中に衝撃を感じた。前につんのめる。崖の上で、手のひらが滑った。

「ひやぁっ……!」

 悲鳴を上げる暇もなかった。がくんと体が揺れたと思うと、次の瞬間には空中に投げ出されていた。

「王妃さま!」

「貴様、何をする!」

 上の方から兵士の怒鳴り声が聞こえる。しかしその声も、すぐに遠くなっていった。

 引力には逆らえず、明日香の体は崖から真っ逆さまに落ちていく。

(ジェイル……!)

 ドボン、と低い音が辺りに響いた。濁流が明日香の体を容赦なく飲み込む。

 幸か不幸か、明日香の意識は空中ですでに失われていた。彼女は息苦しさを感じることなく、水の底に引きずり込まれていった。