「わかった。お前のことを信じる」

 ジェイルの言葉は、明日香を救いはしない。信じてもらったところで、彼女の置かれている状況は良くならない。

 不安で泣き続ける明日香。しゃくりあげていると、不意に頭に温かいものが乗った。

 ビックリして顔を上げると、明日香の眼前にジェイルの顔があった。左右対称の、端正な顔立ち。明日香の胸が跳ねた。

 ジェイルは大きな手で、明日香の頭を優しくなでる。

「ここにいればいい」

「え……」

「見ての通り、自給自足の貧しい家庭だが、お前ひとりくらいなんとかなる。いつまでもいればいい」

 明日香を安心させるように、ジェイルは柔らかく微笑んだ。長い黒髪の間からのぞく透き通った瞳に、彼女の心は射抜かれた。

「あ……ありが、とう……」

 胸の中いっぱいに膨れ上がっていた不安が、ジェイルの手の温度で溶かされていく。

 とにかく、今明日香が頼れるのはジェイル親子しかいないのだ。

 明日香は涙をぬぐい、顔を上げた。

 こうして明日香の異世界生活が始まったのだった。