山本勘助のように、剣が使えるわけじゃない。明日香は采配を持った手をだらりと下ろした。抵抗のしようがない。

「アスカ!」

 猛然と向かってくる馬が、アスカの目の前で鋭く嘶いた。上げられた前足に踏みつぶされないよう、兵士たちに抱えられて後ろに下がる。

「くっ」

 老王が悔しそうにうめいた。暴れる馬を、なんとかなだめようとしている。馬の尻に、剣が刺さっていた。

「俺の妃に手を出すな!」

 肉食獣の目をしたジェイルが、後ろから襲ってきた敵に回し蹴りを食らわせ、落とした剣を拾った。かと思うと、風の如く老王目がけて走り出す。

 そのとき、さらに後ろの方から大勢の足音が地を揺らして近づいてきた。

「別動隊だわ!」

 別動隊と生き残った伏兵が合流して、戻ってきた。カルボキシル軍を挟み撃ちする格好になり、形勢は逆転した。

「国王、ここは引きましょう」

 老王はジェイルをにらみつけただけで、傷ついた馬を走らせる。彼の首を取ろうとするシステイン軍の隙間を縫い、カルボキシル軍は老王の後について撤退しはじめた。

 策を読まれ、動揺したシステイン軍に、彼らを追討する力は残っていなかった。

「とりあえず、プロリン城は取り返したか」

「同盟は破棄されたまま……彼らとはまた戦うことになるでしょうな」

 ジェイルとバックスが疲弊した表情で戻ってきた。

(決着をつけられなかった……私のせいだ)

 明日香は彼らをねぎらう言葉さえ、発することができなかった。