しかし上杉軍はそれを察知し、奇襲をかけられる前に城を出て、武田軍本隊に向かって出発していた。得意の馬は数頭しかいない。極力足音を消して行軍してきたのだろう。
「アスカ、しっかりしろ。こうなってしまったからには戦うしかない」
ジェイルに肩を揺すられて我に返る。
(そうだ。ここで動揺しちゃいけない)
武田軍の軍師だった山本勘助は、策に溺れた自分を恥じ、衝突した上杉軍と激しい戦いを繰り広げた。結果、討ち死にしたのである。
(私は勘助にはならない)
山本勘助に憧れてつけていた、実用性のない眼帯を明日香は放り投げた。
「みんな、落ち着いて! 別動隊が来るまでこらえるの。伏兵のおかげで、敵の数は減っているわ!」
武田軍とは違い、明日香は城と本隊の間に伏兵も忍ばせておいた。鉄砲を持った伏兵に、敵は襲われたはずだ。彼らに止めきれなかった者たちが、今ここにいる。
「もう鉄砲の間合いじゃない! 剣を持って! 鶴翼の陣を敷くの!」
明日香が叫ぶと、動揺しながらも兵士たちが動きだした。固まって向かってくる敵を、広がった翼の形の陣で飲みこむように迎え撃つ。



