「こんなところでじゃれあっている時間はない。陛下、びっくりしましたよ。カルボキシルが裏切ったそうですね。途中で噂を聞きました」
「ああ、すぐに対処しなくてはならない」
おとなしくなった娘の手を放し、ディケーターは一味に運ばせた荷物を指さした。大きな箱が積み上げられている。槍くらいの長さのあるものもあった。
「これはお二人への結婚祝いです。今日はこれを届けにきただけなのです。すぐにお暇します」
「えっ、お祝い? うそ、ありがとう」
まさか、海賊が結婚を祝ってくれると思っていなかった明日香は驚いて礼を言った。
「はは。あなたは変わりませんね。もっと偉そうになっていたら、どうしようかと思っていましたよ」
声を上げて笑ったと思うと、ディケーターは明日香の近くに寄り、小声で囁いた。
「近くにいる者に気を付けた方がいい」
「え?」
「確かな情報ではないが、何者かがカルボキシルと繋がっているという噂があります」
緊迫感を含んだ彼の言葉に、明日香はごくりと唾を飲み込む。
「私の杞憂であればいいのです。では、お大事に」
ディケーターは明日香の左腕をちらと見た。ドレスで隠れてはいるが、ぎこちない動きで怪我をしていることを見破られたのだろう。



