重臣の前では気丈に振舞っていたが、ジェイルと二人きりになると途端に弱気になる。
(今は誰も信じられない)
ビアンカの豹変ぶりと、昨夜の事件で、明日香はすっかり疑心暗鬼になっていた。
「アスカ……」
そっとジェイルの手が明日香の肩に伸びる。そのとき、ドアがノックされた。
「国王陛下、王妃さま、客人です」
ペーターの声だ。
「客人? こんなときにか」
早く準備を整えて進軍しなくてはいけないこの忙しいときに。ジェイルは舌打ちでもしそうな表情をしていた。
「誰とも会う予定はないんだけど……いったい誰が訪ねてきたの?」
明日香としても、あまり時間を無駄にはできない。ドアを開け、急ぎ足で客間へと向かった。
客間で待っていた客人を目にした明日香は、思わず大声を上げた。
「ディケーターさん! 久しぶり!」
ドレッドヘアの海賊の頭領、ディケーターが微笑む。後ろには護衛なのか荷物持ちなのか、彼の一味の海賊が五人ほど控えていた。その中にはディケーターの娘がいる。
「あなた、大きくなったわね」
日焼けした娘は、駆け寄ってきた明日香をにらむ。大きな目が反抗的に光った。
「たった半年でそんなに変わるもんか」
「ううん、大きくなった」
明日香が頭を触ろうとしたら、娘はその手を打ち払おうとする。ディケーターが娘の手首をつかんでそれを止めた。



