翌日。
明日香が襲われたという事実は公にはされなかった。兵士たちを動揺させないためだ。しかし、その場に居合わせた兵士たちから噂が広まりつつあった。
「犯人を捕まえたらタダではおかない」
妃を傷つけられたジェイルは喉を鳴らす獣のように、犯人が捕まるのを待っていた。
「そっちも気になるけど、今はカルボキシルを何とかしなきゃ」
明日香は気丈に振舞い重臣を集め、軍議を開いた。広い机に地図を広げ、全員で囲む。
「別動隊をプロリン城の後ろに回り込ませて、奇襲をかける。出てきた兵士たちを追い立て、本隊と挟み撃ちにする」
本隊とは、バックスが連れている軍に追加の兵士を送り込んだものだ。
明日香の策に反論する者はいなかった。今までの功績で、明日香はすっかり軍師として認められていた。
「アスカと俺は本隊に合流する。皆の者、早々に準備せよ」
ジェイルが命じると、重臣たちはそれぞれ頷き、自らの軍備を整えに行った。
「本当は城に待機してほしいんだが」
無論、明日香の怪我の具合を心配しているのだろう。誰もいなくなった部屋で、ジェイルが眉を下げて明日香を見つめる。
「ジェイルが傍にいろって言ったんじゃない。私をひとりにしないでよ。もうひとりじゃ眠れないわ」



