トリップしたら国王の軍師に任命されました。


 中をランプで照らす。吊るしてある肉を見て、ぎょっとした。

(ワインがあるはずだけど、どこだろう。もしや、地下のワインセラーとか? そんなところまではちょっとなあ)

 炊事場に入ったのが初めての明日香は、目的のものが見つけられず、まごまごしていた。すると。

「つっ!」

 急に左腕に鋭い痛みが走る。思わず痛んだ場所を押さえると、ぬるりとした感触がした。

「なに!?」

 まさか幽霊が襲ってきたわけではあるまい。振り返ってランプをかざす。そこに一瞬、人影が見えた。

 明日香が目を凝らそうとすると、人影はランプに向かって光る何かを振りかざした。刃物だと明日香が認識した時には、ランプが割られた。

 飛び散る破片に指を傷つけられ、彼女は咄嗟にランプを投げ捨てた。火は燃え広がらず、小さくなって消えた。

「誰なの?」

 闇の中で、明日香はじりじりと後ろに下がる。灯りがなく、何も見えない。

 こめかみを冷汗が流れる。腕の傷を押さえたまま、下がる足が震えた。

(もうダメだ)

 出口がどちらかもわからない。背中を向けて走り出した途端に追いつかれて殺される。明日香がギュッと目を瞑ったそのとき。

「アスカ、いるのか?」