ビアンカのことを考えると、ジェイルに素直に甘えることもできない。相変わらず床に入ると必ず明日香を求めてくるのだが、彼女が落ち込んでいる様子に気づくと、口づけ以上はしてこなかった。
(喉が渇いた)
このままでは眠れそうにない。明日香はランプを持ってそっと部屋から抜け出す。ドアの脇に見張りの兵士がいた。
「ちょっとお手洗いに。すぐ戻るから、国王の警護をお願いね」
トイレは夫婦の寝室と別である。女性のトイレについていくのは無礼だと思ったのか、王妃より国王を守ることを優先したのか、兵士は素直に敬礼した。
部屋を離れると、明日香はトイレではなく、螺旋階段を降りて炊事場へ向かう。暗い城の中は不気味で怖かったけど、ランプの灯りを頼りに進む。
(飲まなきゃやってられない……ってほどではないけど)
明日香はアルコールを求めていた。仕事で嫌な事が重なって眠れなくなったとき、よく家でビールや缶チューハイを飲んだ。少しでもアルコールを摂取すると、眠くなる性質なのである。
(しかしさすがに、暗いと怖いなあ……)
炊事場には鍵がかかっていなかった。ドアを開けると軋んだ音がした。



