「はい。そして人質になった時点で、婚約破棄しているはずだとは思っていました。有力貴族の子息や同盟国の王子なら、当然戦に出て死んでいる可能性もあると」

 ビアンカの事情を想像もせず、友達扱いしていた自分を、明日香は恥じた。

「彼女のそばにいてあげて」

 やっとそれだけ言った明日香の言葉に、アーマンドは神妙な表情でうなずいた。



 第一隊が城を出てから五日後、バックスから手紙が届いた。

「交渉は決裂」

 読み上げるジェイルの声が、明日香の心にずしりとのしかかった。

「カルボキシルはいかなる条件を出されようとも、戦いをやめるつもりはない。ただちに援軍を送ってほしい。でないと、いつ侵攻してくるかわからない……だと」

 伝令兵が持ってきた手紙を机の上に置き、ジェイルは小さく息を吐いた。

「ビアンカ王女に説得に行ってもらうのはどうでしょう?」

 横から口を出したペーターだったが、明日香はため息で応じるだけだった。

「アスカやアーマンドから聞く限り、彼女は乱心してしまっている。それに父親を止める気はさらさらないらしい」