アーマンドが慌ててビアンカを止めようとする。明日香はいつもと明らかに違うビアンカの様子に戸惑いをかくせない。

「戦争になればいい! お父様は必ず仇を討ってくれるはずだわ。私も死ぬけど、お前たちも死ぬのよ」

「仇? どういうこと?」

 聞き返すと、ビアンカはこれ以上できないくらい目を吊り上げ、叫んだ。

「先の戦いで、私の婚約者が死んだわ。もうすぐ式を挙げるはずだった。愛していたのよ。でも、お前が広めたあの残酷な鉄の弾にやられて死んだ!」

 明日香は声を失った。アーマンドも、目を丸くしてビアンカを見つめている。

(あの戦いで、ビアンカの婚約者が……)

 ビアンカは明日香をにらみつけたまま、ふらりと立ち上がる。鉄格子を掴み、明日香に噛みつくように言葉を投げつける。

「よかったわね、自分だけ幸せな花嫁になれて。伝説の軍師だって崇められて。でももうすぐおしまいよ。お父様の軍が、この城を焼き払ってくれるわ!」

 一気に言い終えると、ビアンカは突然笑いだした。狂気を感じる甲高い声が、地下牢に響く。

「アスカさま、一度出ましょう。これ以上刺激してはいけません」

 アーマンドが明日香を抱えるようにして、ドアの外に連れ出した。重いドアを閉めると、中の声はほとんど聞こえなくなる。