自分で全身チェックして薬を塗った明日香は、ジェイルが置いていった服を着て、部屋から出た。

 怪我はほとんどが打ち身で、あちこちにあざや擦り傷ができていたけど、大したものはなかった。

(それにしてもこの服……もしやジェイルの?)

 だぼだぼのカットソーっぽいものは、小柄な明日香の膝まで隠れた。まるでワンピースだ。

 彼氏の家にお泊まりした人みたいだが、服の胸元に用途不明の紐がバッテンに交差している。はっきり言ってダサイ。ファンタジーアニメでよく見るやつだと、明日香は思った。

「ああお嬢さん、大丈夫でしたかな」

 初老の男が明日香を見て微笑む。ジェイルの父親だ。

「あの、薬……ありがとうございました」

「どういたしまして。私はペーターといいます」

 明日香の脳裏に、一瞬アルプスの山々がひらめいた。

「明日香です」

 アルプスを舞台にした有名児童文学の登場人物に、同じ名前の人物がいたなあ。と思いつつ、明日香は笑いをこらえて返事をした。

「アスカ、ここに座るといい」

 部屋の中央にあるテーブルに、ジェイルが座る。その向かいに、明日香。お盆に飲み物を乗せて持ってきたペーターが、ジェイルの隣に座った。

「まず、これだけは確認しておきたい。正直に話してくれ。お前はいったいどこから来た?」