翌日、軍備を整えたシステイン軍は、バックスの指揮のもと、出陣した。ジェイルと明日香は、今回は城で交渉の結果を待つ。

 その日の夜、明日香は食料を持って、こっそりと地下牢に向かった。

「アスカ……いえ、王妃さま」

「名前でいいよ」

 入口を守っているアーマンドがビックリした顔で明日香を出迎えた。

「ビアンカ」

 ドアの中は、湿気が多く、かび臭いような気がした。

「……アスカさま……」

 牢の中のビアンカは、たった一日で別人のように見えた。髪は乱れ、目の下にはクマ。憔悴しきっているようだ。

「食事よ」

 鉄格子の隙間から皿を入れ、そこにパンと果物、干し肉を置いた。ビアンカは膝を抱え、それを虚ろな表情で見ていた。

「ねえビアンカ、少しでも食べて。今、バックスが交渉に行っているの。平和的解決ができれば、ここから出られるから」

「……そんなもの、できるわけないわ」

 ビアンカらしくない、乾いた唇から細い声が聞こえた。口調はだんだんと荒くなっていく。

「殺されたっていいのよ、私は。お父様が屈辱を受けたまま、お前たちの属国として甘んじるわけがないことはわかっていた」

「ビアンカさま、お気をたしかに。王妃さまの御前です」