「昨夜、プロリン城は奇襲を受けました。夜の闇に隠れ、やつらはやってきたのです」

 得意の馬を捨て、徒歩で敵軍は城に近づいた。奇襲されたシステイン軍は夜に慣れておらず、結局城を明け渡して敗走してきたという。

「不甲斐ない。どうして応戦しなかった」

 バックスが目を吊り上げ、兵士をにらむ。彼らは黙ってうなだれた。

「奇襲をかけられたら仕方がない。慌てていると、銃だって外れちゃうわ」

 しかも夜の闇の中では、鉄砲を扱うのさえおぼつかなかっただろう。

「まさかカルボキシルが裏切るとはな……」

 ジェイルが額を押さえる。明日香はその場で深呼吸した。

(ビアンカっていう人質を差し出しておきながら、裏切るなんて)

 反逆させないための人質は、こういうときどうするべきか。

「ビアンカ王女を、どうします」

 みんな同じことを考えていたのだろう。真っ先にバックスが口を開いた。アーマンドは眉間に深い皺を寄せている。ジェイルも渋い顔で言った。

「彼女に罪はない」

「それは全員わかっています。ですが、こういうときのための人質です」

 バックスが言うそれだって、ここにいる誰もがわかっている。

 戦国の世なら、属国が裏切れば、差し出された人質はもれなく死罪だ。見せしめのために、殺される。