――もしここで、部屋に入れと言われたら、俺は従うだろうか。
ポケットの中に手を突っ込むと、彼女のために用意した、小さなスエード生地の小箱が指先に触れた。
「――じゃあな。ゆっくり休めよ」
彼女の言葉を待たず、俺は背中を向ける。
なに考えてるんだ俺は。彼女の部屋に入ったら、こんなものを渡したら、後戻り出来なくなるじゃないか。
ふたりの関係は、仕事上の信頼で成り立っている。
上司と部下という関係を崩してしまったら、この先お互い、しんどい思いをするだけだ。
「あ、ありがとうございました……!」
背後からわずかに焦った彼女の声が聞こえてきて、俺は背中を向けたまま軽く手を掲げる。
彼女と過ごしたホワイトデーの夜はまんざら悪くはなかった。なのに、今は虚しさが胸の奥に渦巻いていて、苛立ちすらつのる。
……お前が、そんな顔、するから……。
あの眼だ。俺を求める無垢な眼差しが、調子を狂わせる。
俺は、どうしたかったんだ?
ポケットの中に手を突っ込むと、彼女のために用意した、小さなスエード生地の小箱が指先に触れた。
「――じゃあな。ゆっくり休めよ」
彼女の言葉を待たず、俺は背中を向ける。
なに考えてるんだ俺は。彼女の部屋に入ったら、こんなものを渡したら、後戻り出来なくなるじゃないか。
ふたりの関係は、仕事上の信頼で成り立っている。
上司と部下という関係を崩してしまったら、この先お互い、しんどい思いをするだけだ。
「あ、ありがとうございました……!」
背後からわずかに焦った彼女の声が聞こえてきて、俺は背中を向けたまま軽く手を掲げる。
彼女と過ごしたホワイトデーの夜はまんざら悪くはなかった。なのに、今は虚しさが胸の奥に渦巻いていて、苛立ちすらつのる。
……お前が、そんな顔、するから……。
あの眼だ。俺を求める無垢な眼差しが、調子を狂わせる。
俺は、どうしたかったんだ?



