燻る紫煙

それから、私は二度とあの人と会うことはなかった。

別れは、LINEで告げた。

もう、会えない。

分かった。

それだけのやりとりだった。

だけど、

その一言に、言葉にできない二人の思いが読み取れたように感じる。

あの人がどれくらい私のことを想っていてくれていたのかは、分からない。

でも、

一緒にいるだけで幸せだった。

抱きしめられることで、

私は自分の存在を感じることができた。

こんなにも、

こんなにもあの人を愛している、

自分の存在を。

生涯、こんなにも1人の男の人を愛したことなんて、なかった。

全身で、

全心で、

愛したことなんてなかった。

私たちの関係は、世間から見れば間違っていたのかもしれない。

十分な愛情を得られなかった私のことを、不幸せな女だと思う人もいるかもしれない。

だけれども、あの人を愛したことは間違っていたとは思わない。

あの人と過ごした時間はとても貴重で、

そして幸せなものだったから。

そう、

思い返す。

そしてふと、

テーブルの上の、

あの人が前に置き忘れた煙草の箱が目に付いた。

私はそこから1本の煙草を取り出し、

口にする。

火をつけて、

吸う。

……苦い。

やっぱり煙草だけは好きになれない。

重い、長い静寂と、煙が、私だけを包んでゆく。


そしてそのまま、

煙草を、灰皿に落とし、

火を消した。                 

                  -終-