燻る紫煙

それからしばらく、

私と彼女の間に重い、空気が流れた。

そして、

私の強い視線に耐えられなくなったのか、彼女は、下を向いて、こうつぶやいた。

「私たちには、娘が……、娘がいるんです」

最初、私は彼女が何を言いたいのかよく分からなかった。

すると、

「私だけの問題なら、かまいません。でも、娘のことを考えると、……あの人が必要なんです。あの子には、父親が必要なんです」

彼女は、必死だった。

あの人を引き止めるために、必死だった。

だけど、

私は許せなかった。

私と正面から向き合わず、

子供をあの人を引き止める術として持ち出す、

彼女のことがどうしても許せなかった。

「もう、帰ってください。これ以上話すことは、ありません。私は、啓介さんと別れる気はないですからっ」

今まで、これほどストレートに、自分の感情を表に出すことはなかった。

ただ、

あの人と離れたくない、

その強い想いが、

私をここまで動かしていた。