燻る紫煙

その女性は、私より少し背が低く小柄で、黒く長い髪を後ろで1つにまとめていた。

私を見ているその目は、クマができていて、うつろだった。

あの人の奥さんだ、

そうしか考えられなかった。

そう察した私に彼女は、

「彼は、夫は、ここには来ませんから」

つぶやくように言葉を発した。

「あの人が何も言わず出かけようとするから、今日は娘の面倒を見て欲しいと私が言ったんです」

そして続けて、

「お願いですから、もうあの人とは会わないでください」

そうはっきり言い切った。

私は彼女に言葉をかけず、もう一度彼女の姿を眺めた。

確かに、顔立ちは整っている。

昔あの人が彼女に惹かれたというのも分かる気がする。

しかし今は、疲れが顔中に出ているせいか、魅力的な女性には全く見えなかった。

彼女は、あの人の奥さんにはふさわしくない、そう感じた。

あの人が、彼女を女性として見れない、奥さん以外の女性を求めてしまう理由というのが分かった気がした。

私のほうが、彼女よりも若いし、魅力的なんだと思う。

私のほうが、彼女よりもあの人のことをずっと愛していると思う。

そう思うと、

あの人の奥さん、という存在を目にして、

あの人から引き下がる、そんなことはできない気がした。

女としての、自分がそうはさせなかった。

「私にとって、あの人……啓介さんは大切な存在なんです。あの人も、私を必要としてくれてるんです」

私は、

そう言って彼女の顔をじっと見据えた。