燻る紫煙

そして、

あの幸せな時間は本当に夢だったのかもしれない。

急に私は、夢から現実に引き戻されたかのようだった。

名古屋から帰って来た日から、私たちが会う日は、

週2日から週1日へ、2週に1日へと、徐々に減っていった。

決して、私たちがお互い想いあう気持ちが、弱くなっていったのではない。

確実に、

何かがおかしかった。

あの人と会う約束をしていた日に急にキャンセルされたり、

電話で話しているとき突然電話が切られたり。

今までになかったようなことが起きていた。

気づかなかったわけではない。

気づかないようにしていたのかもしれない。

私の頭の中に浮かんだのは、

名古屋で過ごした夜の、あの電話だった。

あれから何度かあの人と会ったが、

あの人は何も言ってくれなかった。

でも、

私は確信していた。

あの電話は……

その時、スマホの着信が鳴る。

電話を取ると、

10日ぶりに聞くあの人の声。

「沙耶加ごめん、今日も行けなくなった」

本当は昨日会う約束していたのだけれど、今日に延期した後のこの言葉。

私は怒りとも、絶望とも思えぬ気持ちにかられて、

「奥さんに、私のこと気づかれたんでしょ?」

そう問いかけずにはいられなかった。

あの夜から、

聞きたくても、

現実を知るのが恐くて聞けなかったことを。