燻る紫煙

時が止まったかのような静寂の中、

スマホのバイブ音だけが部屋に響く。

「……出ないといけないんじゃないの?」

私が声を絞り出して。

「いや、いいよ」

あの人が携帯の方に目をやり、そう一言。

いつもなら、二人の時間を邪魔されたくない。

そう思って、あえて出るようにはうながさなかった。

でも今日は、

なんだか嫌な予感がする。

「出たほうがいいと思う」

そう言う私にあの人は少し嫌な顔をして、

「今日は沙耶加のことだけ考えたいんだ。……もう、何も考えないで」

そう言いながら激しいキスをした。

私は、あの人を受け入れるだけで精一杯で、それ以上何も言えなかった。

それから、電話は数十秒鳴り続け、

そして止まった。

それから、

朝まで鳴ることはなかった。

次の日。

初めてあの人と過ごす土曜日。

朝からあいにくの雨だった。

私たち二人は、どうしたって日の当たらない恋愛をしているんだ、

そんな皮肉なことを考えてしまう。

けれども、

私たち二人を誰も知らない町で、普通の恋人たちのように、腕を組んだり、笑って話したり、そんな当たり前のことができるのが本当にうれしかった。

あの人がさす傘の下で私はあの人に寄り添い、

「休日に、二人で過ごせるなんて夢みたい」

そうつぶやいた。

それを聞いたあの人は、

私を見て静かに微笑んだ。

夢のような時間。

それは、

泡のようにもろくって、

そしてすぐに消えてしまうもの、

なのかもしれない。