燻る紫煙

しばらく私は、その場から動けなかったが、パタン、というあの人がバスルームから出てくる音で、我に返る。

「どうかしたの?」

呆然とベッドの縁に腰掛けていた私を見て、異変に気づいたのか、あの人はそう尋ねた。

今さっき起こったことを、

自分の推測を、

あの人にそのまま話そうか、私は迷った。

けれど、

あの人と二人だけのこの時間を、だれにも邪魔されたくない。

そう思って、

「ううん。私もシャワー行ってくるね」

私は事実を心の中にしまうことに決めた。

そうして、

私は何もなかったかのようにシャワーを済まし、

バスローブに身をまとい、

あの人が座るベッドに向かった。

あの人の隣に腰掛けると、

「今日は、時間を気にしなくていいんだね」

そう言ってあの人は私を抱きしめた。

私を抱きしめるその手を、

あの人はそのまま上に持っていき、

私の髪にそっと触れ、

そして耳元に……

同時にあの人の顔が近づいてきて、

唇に触れる。

一度、触れ合った唇を離し、あの人は私を見つめた。

と、思ったら再び。

今度は、長く。

あの人の舌が、私の舌に絡みつく。

しびれるような感覚。

お互いが、お互いを強く求め合う瞬間。

が、

その瞬間、

あの人のスマホのバイブが鳴る。

音楽の様に流れていた二人の時間が、ふいに遮られた。