燻る紫煙

私はそのとき、本当に幸せだった。

幸せすぎて恐いくらいだった。

あの人が私の元へ戻って来てくれて、

一晩一緒にいたいと言われて、

抱きしめられて。

今度こそ心が通じあったんだ、

とそう思っていた。

そうして金曜日をむかえ、

仕事を終えた私は新幹線に乗って名古屋に向かった。

あの人は仕事が終わるのが遅いということだったので、

事前に指定されていたホテルのラウンジで、コーヒーを飲みながら待っていた。

ずいぶん長い間待っていたのだろうけど、

不思議と嫌な気持ちはしなかった。

ただ、

あの人が来るのが待ち遠しかった。

そしてあの人の姿を見つけた瞬間、

私の胸は高鳴った。

あの人がチェックインをすませた後、私たちは部屋にむかった。

初めて過ごすあの人との一晩。

一晩中あの人と一緒にいれる。

それを考えると私は幸せでたまらなかった。

「だいぶ汗かいたし、先シャワー浴びてきていいかな?」

あの人は、私がうなずくのを見て、バスルームへと入っていった。

私は、何気なく窓の外から夜景を眺めながら、また幸せな気持ちにひたっていた。

すると、部屋の電話が鳴る。

ロビーからの電話だろうか。

そう思って私が電話を取る。

「もしもし」

返事がない。

「……もしもし?」

無言。

そして、

ガチャ。

受話器を置く音だけが聞こえた。

まさか……

そんなはずはない。

でも……

幸せの絶頂にいた私を、急に訪れた不安の波が呑み込んでゆく。