燻る紫煙

「もしもし」

電話を通して聞くあの人の声は、

どこか懐かしく、

胸がきゅっとしめつけられるような感じがした。

「……はい?」

喉の奥から搾り出されるように、私は第一声を発した。

「出てくれないかと思ったよ」

私の声を聞いたあの人は、少しほっとしたようだった。

張り詰めていた空気がそこでゆるみ、そしてあの人は話を始めた。

「こないだは、ひどいこと言ってごめん。あの時は、ちょっと気が立ってて。もう少し沙耶加の気持ち、考えてあげればよかったな」

私は無言であの人の言葉を聞いていた。

優しく語りかけるあの人の声を聞いていると、

複雑にいろんな気持ちが絡み合っていた私の心の中は、

すぅっと、

沈むように落ち着いた。

「ううん。私のほうこそ、家庭のことは分かってたつもりなのに、無理なこと言って……」

「また、会いたい」

私の話を遮るようにあの人がこう言った。

そんな、

ストレートな言葉を受け、

私はもう、

何も考えることができなかった。

ただ、ただあの人に会いたい。

私は、もうあの人以外愛せない。

あの人以外に、私を満たしてくれる人はいない。

そして、

「私も……私も会いたい」

今度こそ、

自分の気持ちに正直になろう。