燻る紫煙

そんなことがあってから数日が過ぎ、

私は連絡先が書かれた紙を、どこにしまったのかさえ忘れかけていた。

と同時に、

私はある変化に気づき始めていた。

単調な着信音。

今まではスーツのポケットにしまわれていたスマホを、

あの人は最近テーブルの上に置くようになった。

そして、

電話がかかってくると、

表情を変えず、携帯電話をつかみ、

「ちょっと……」

と、バスルームへ消えていく。

話している時間はすごく短い。

1分もたたないうちにバスルームから出てきて、

「ごめん、帰るわ」

そう言って私のもとを去るようになった。

奥さんだ……

私はそう確信した。

もしかしたら、

奥さんは私のことに感づいたのかもしれない。

「奥さんに、気づかれたの?」

ある日、私は話を終え、バスルームから出てきたあの人に問いかけた。

あの人は、身支度をしながら、

「いや、バレてはいない…けど、
最近早く帰って来いって言われることが多くて」

つぶやくように言った。

あの人はそう言うけど、

おそらくあの人の奥さんは夫の浮気に気づいているんだろう。

そう思った。

直感だった。

「また連絡する」

そう言って私の部屋から出ようとしたあの人に、

私は駆け寄って後ろから抱きしめた。

「帰らないで。もう少し一緒にいて」

私は、

奥さんに言われるがまま帰ろうとするあの人が、

少しねたましくて、

意地悪したい気持ちになった。

そして、何も言葉を発しないあの人を、抱きしめる力をさらに強くする。