燻る紫煙

あの頃、私は少し周りが見えなくなってしまっていたのかもしれない。

ぶつける先のない、

私の高まった思いは、

私の心の奥底でくすぶっていた。

そんな私を心配してか、

麻里は度々私に声をかけてくれていた。

ある日曜日、

新しくできた駅前のカフェに行ってみようと、麻里に誘われ、

私たちは真新しいお店で、レアチーズケーキとフレーバーティーを楽しみながら、他愛もない話をしていた。

麻里がチーズケーキの最後の一切れを口に入れると、

ふと私に尋ねた。

「沙耶加……まだ啓介さんと続いてるのよね?」

私は麻里とは目を合わさずに、

「ん……」

まだ湯気がふんわり立っているティーカップを眺めながら。

麻里は少し沈黙した後、

「おせっかいって思われるかもしれないけど」

そう言いながら小さな紙片をテーブルの上に置いた。

「このまま啓介さんとそんな関係続けていても、沙耶加は幸せにはなれないと思う」

そう言われ、麻里が置いた紙片に目をやると、

そこには男性の名前とLINEのIDが書かれていた。

「智也くんはあたしの大学の時の友達なんだけど、最近彼女と別れて、誰か紹介してほしいって言われてて。優しくてすごくいい子だし、それに、一途に沙耶加のこと想ってくれると思う」

麻里は真剣なまなざしで私を見つめていた。

確かに、

普通に対等に愛し合える恋愛をするのが、幸せなのかもしれない。

いつまでたっても、私の方を向いてくれない人と、

関係を持っていたって、決して幸せにはなれないのかもしれない。

でも……

「とにかく、一度会ってみて。新しい出会いがあれば、きっと啓介さんのことは忘れられる」

頭ではそう思えても、気持ちがついていかない。

私は麻里がくれた紙片を手にして、

そこに羅列された文字をただずっと眺めていた。