燻る紫煙

私があの人に、すべてを察したということを伝えた時、あの人は少し眉間にしわを寄せ、言葉を発するより前に煙草に火をつけた。

あの人は、全く動揺しているようには見えなかった。

少なくとも私にはそう感じた。

あの人が、

謝罪の言葉を口にしてくれれば、

それともいっそのこと、体だけが目的だったと言ってくれれば、私はあの人に怒りを爆発させて、責め立てることができたのかもしれない。

けれども、あの人の口から出た言葉は、私を困惑させるようなものだった。

「俺が女として愛しているのは、沙耶加だけだから」

それから、

あの人は淡々と家庭のことを語った。

奥さんとは社内恋愛で結婚したということ。

1年後に長女が生まれ、今年3歳になるということ。

2年前から奥さんとは全く体の関係がないということ。


「妻のことは、もう女として見れなくなったんだ」

私との関係を続けたい、

そのための言い訳にしか聞こえなかった。

「信じて……」

あの人はそう言って私を抱き寄せ、唇を近づけてきた。

「いや」

私は反射的にあの人を押しのけた。

が、

あの人はひるまなかった。

そのまま強引に私の唇に触れ、

指先で鎖骨を撫でる。

あの人はずるい。

私の弱いところ、感じるところを、

すべて知りつくしている。

私はもはや抵抗できなくなっていた。