燻る紫煙

そうして、

あの日の約束から私たちは会うことはなく、クリスマスの日を迎えた。

その日のオフィスは、早く仕事を終えようと忙しくしている人ばかりで、私と麻里も例外ではなかった。

定時をまだ10分ほどしか過ぎてない段階で、私たちは会社を後にした。

「沙耶加は、どこ行くの?」

今日は少し暖かい。

ホワイトクリスマスは期待できそうもないかな。

そう思って、首にまいたマフラーを少し緩めた私に麻里が。

「家でごちそう作って啓介さんが仕事終わるの待ってる。麻里はどうなの?」

私が逆に聞き返すと。

「私?結局クリスマスに彼氏作るの間に合わなかったから、友達と過ごすんだ」

少し苦笑いしながら。

「私の分まで楽しんできてよね」

麻里が元気よくそう言って、私たちは別れた。

それから、私は家路を急いだ。

いつもより早歩き。

浮かれている自分に少し飽きれながら、

それでも、それでもあの人が帰ってくるのが待ち遠しかった。

マンションの部屋。

テーブルの上にはできあがったばかりのローストビーフにホワイトシチュー。

冷蔵庫には昨日の夜作ったクリスマスケーキ。

ありきたりすぎるかな。

そう思いながらスマホを見つめる。

20:13

年末だし、今日は遅くなりそうなのかな。

窓の外を眺め、雪が降っていないのを確認して。

21:47

またスマホに目をやる。

まだ終わらないんだろうか、連絡くらいくれればいいのに・・・。

22:25

すっかり料理は冷え切ってしまって。

早く、早く来てほしい。

23:48

やっぱり、あの人はここには来ないのかもしれない。

スマホのデジタル表示を見つめたまま。

そして……

0:00

テーブルの上に置かれたスマホの時計が日付が変わったことを示した。

その日、いくら待っても、

あの人からの電話は、

かかっては来なかった。