今夜、月に煌めく頃に【短編】

喉が乾いて声が出なかった。

まるで声を吸われているかのように天狗に引き込まれていく。

体が動かない。

天狗は闇の中で不気味に笑う。

「安心しろ、殺しはしないさ。天狗の里へ連れて帰る、そこから先はどうなるかはわからんがな」

天狗が近づいてくる。

一歩一歩確実に、真紅の瞳は私を捉えて逃がそうなどとはしてくれない。

動けない。

怖い。

「泣いているのか人間。人間の涙は実に爽快だ、もっと鳴き叫べ」

天狗は私の目の前で足を止めると私に右手を向け、口角のみを上にあげて言った。

「連れて行く」



助けて。