ただあの森で柔らかい桜の香りがする甚兵衛姿の少年と毎日遊んでいた。

夕暮れ日が消え入ってしまう直前まで、ずっと彼と遊んでいた。

両親は私は妖が見えるといっていた。

一度両親が私が遊んでいる場へ足を踏み入れた時何も見えなかったそうだ。

ただ私が1人、森の中で喋りながらきゃっきゃしていただけだったと。

それでも両親は何も言わなかった。

森に住む妖は人間に危害を加えない。

その言い伝えが古代からずっと語り継がれてきたからだ。

だが天狗だけは違う。

天狗は自分の気に入ったものは全て手に入れようとする。

ものだろうと人間だろうと御構い無しだ。

ただ天狗は日の消え入った夜しか森に姿を現さない。

だから彼は私を日の消え入る前に家へ返してくれたのに。



私は禁忌を犯してしまった。