「みなさーん、こんにちはー! 週末恒例、ウサギさんマジックショーの始まりだよ!」


司会者が奥へ引っ込んだ後にポーズを決めて登壇したのは、予想通りさっきのウサギだった。お約束のようにシルクハットを手にしながら、音楽に合わせて軽やかにステップを踏む。
なるほど、黒いベストと真っ赤な蝶ネクタイを付けたその姿は、マジシャンそのもの。シルクハットとのコーディネートもバッチリだ。

あっちへ行ったりこっちへ来たり、くるくるとコミカルに動き回る。
あの笑顔を貼り付けたようなウサギの一貫した表情も相まって、可愛らしい。

そして、シルクハットの中から赤や黄色のカラフルなハンカチを取り出した。

ーーと思ったら。

一瞬にしてそれは黒くて長いステッキに変わる。それをくるくるとバトンのように回すと、歓声が上がった。


「わ」


テレビでよく見る類の手品だというのに、実際この目で見ても原理が分からず純粋に驚いてしまった。隣に座る女の子は手を叩いてきゃあきゃあ喜んでいる。


ウサギは成功した嬉しさをジャンプで表現して、次のマジックへ移る。今度はロープを真っ白な鳩へ変えるものだった。会場からは悲鳴のような大歓声。


(すごいなあ……)


そうかと思えば、袋に水を入れるマジックでは盛大に失敗して頭から水を被っている。
予想外の展開に、会場は爆笑に包まれた。私も、年甲斐もなく涙が出そうなほど大笑いしてしまって。

しばらくの間、私はあの人のことなどすっかり忘れていた。それほどこの不思議でコミカルな、着ぐるみウサギのマジックショーに夢中になっていたのだ。

こんな風にただ過ごすことが、生きていることが心地よいと感じたのは、一体どれくらい振りだろう。