凛子は俺にとって、常に癒しだった。

側にいるだけで穏やかで居られたし、凛子と一緒にいる時間だけが俺らしく居られる時間でもある。

だが、そんな凛子にも自分自身の刺青のことは話していない。

耳の後ろの赤い桜型の痣のことも、蹊城の裏番だったことも、話したことはなかった……のに。

「常務。刺青のこと、凛……お嬢には」

「お前の墨のことは総長から口止めされている。お前もバレねえように気つけろよ」

常務が俺の耳元に囁くように、声を落として言った。

「俺が話したことも黙っていろよ」

付け加えた一言はいつにも増してどすが効いていた。

やはり知っている-ー俺はゴクリ、生唾を飲み込んだ。

「点検が終わったなら戸締まりして帰るぞ。いつまでも居ると、警察(サツ)に何勘ぐられるかわからねえ。ったく、いつまで張り込むつもりなのか……鬱陶しいったらないぜ」