奈々ちゃんが苦手だというトレモロを教えてあげることにした。
俺も昔すごく苦手で苦労したから。
肘を使うのを教えたくて、何も考えずに奈々ちゃんの手首を固定した。
でも、手を握ってることに急に気がついた。
「ご、ごめん! 手とか握っちゃって」
慌てて手を離したら、
「……だ、大丈夫」
奈々ちゃんは真っ赤な顔で言った。
どうしよう、照れくさい。
部屋がしーんとなった。
沈黙に耐えきれなくなったのか、奈々ちゃんが何か弾こうと鍵盤に手を置いた。
俺は何か喋らなきゃと思って口を開いた。
「な、奈々ちゃんの手首、細いよねっ」
何言ってるんだろう、俺。
「て……手首細いのって、ピアノに向いてないのかな?」
「いや、そうじゃなくて」
「……な、に?」
「女の子だな、って……」
どんだけ恥ずかしいこと言ってるんだろう。
顔も耳も体も、バカみたいに熱い。



