期末テストがやっと終わって、俺は放課後また、北校舎に向かった。
あんまり会うとボロが出てしまうかもしれない。
わかってはいるけど、会いたい気持ちは我慢できない。
第2音楽室の前まで行ったら、中からベートーベンの悲愴の第1楽章が聴こえてきた。
奈々ちゃんだ!
開けっ放したドアから普通に入って、ピアノのすぐ傍の机に腰かけたけど、奈々ちゃんはピアノに夢中で気づかない。
真剣に弾いている横顔も可愛い。
奈々ちゃんが途中で演奏をやめたから、俺はやっと話しかけた。
ピアノもいいし横顔もいい、でもやっぱり話がしたい。
奈々ちゃんはピアノを独学で弾いてるらしい。
本気ですごいなと思ったし、奈々ちゃんのことをひとつ知れてとても嬉しくなった。
奈々ちゃんのことは、全部知りたい。
自分のことは、兄貴のふりしたまま、何一つ知ってもらおうとしないくせに。



