俺は鈴木湊人じゃなくて弟です、って言おうと思ったら、
「鈴木くん、ピアノ弾けるんだ?」
目の前の可愛い子、いや、可愛い先輩は、俺のことを兄貴と認識したまま話を続けた。
「さっきの、プーランクだよね?」
「奈々ちゃんもピアノ弾くの?」
言うタイミングもないままピアノの話を振られて、思わず乗っかった。
兄貴ずるいよ、こんな可愛い人と、ピアノの話できるなんて。
まあ兄貴だったら、サッカー詳しい子の方がいいって言うのかも知れないけど。
この人、奈々ちゃんとは、どうせ二度と話せないだろうし、俺はそのまま兄貴のふりをして、話をしたり、ピアノを弾いたりした。
俺がいちばん好きなプレリュードを弾いたら、わたしが好きな曲と同じだって言った。
なぜかすごく嬉しくなった。
目が合う度に、言葉を交わす度に、ああ可愛いなって、すごくドキドキした。
もっと話したいな、知りたいな、と思った。
こんな気持ちになるのは初めてで、きっとこれが恋なんだな、ってぼんやり思った。



