5月のあの日、第2音楽室で奈々ちゃんに出会ったのは、本当に偶然だった。
俺は6月の合唱コンクールで、ピアノの伴奏をすることになって、その楽譜と音源のCDを、放課後音楽室に受け取りに来るように先生に言われた。
何で俺がわざわざ取りに行くの? ってちょっと思ったけど、まあ部活も休みだったし、渋々音楽室に向かった。
音楽室では吹奏楽部員達が練習をしてて、部外者の俺に変な視線が飛んできた。
少しだけ気まずい。
「鈴木くん、わざわざごめんね」
「ほんとだよ」
先生から楽譜とCDを受け取って、俺はさっさと音楽室を出た。
用は済んだし、あとは帰るだけだ。
でも、廊下を歩き出してすぐ、俺は足を止めた。
通りかかった第2音楽室のドアが開け放たれていたからだ。
ここって何だろうと音楽の授業のたびに気になっていたから、ちょろっと覗くことにしたんだ。
電気はついてなくて、音楽室と同じように黒板も教壇も座席もあって、グランドピアノもある。
なんでこの教室使われてないんだろ、ピアノが壊れてるとか?
誰もいなかったから俺は中に入って、さっそくピアノを触ってみた。
普通に音出るじゃん、調律もしてあるし。



