危ナイ隣人

こうやって撫でてくれた手を、私は知ってる。



「それによ、この俺が簡単に死ぬと思うか?」


「……まったく思わない」


「だろ? そこでその答えが返ってくるのもいささか不本意だけどな」



ぽんぽん撫でたまま、いつも通りの気怠げな声で、だけど少し優しい温度。

似ても似つかないのに重なる影が、私を安心させるのと同時に、不安を掻き立てる。



「普段、バカみたいにキッツい訓練してんだぞ。死んでたまるかよ」


「……そうだよね」


「消防士は生きて返ってくるのが鉄則だからな。テレビとかでよく“決死の〜”とか言うけど、あれ違うから」


「……え?」


「死ぬ覚悟とかするわけねーじゃん。少なくとも俺は、生きて帰って、綺麗なねーちゃん捕まえることしか考えてないから」


「何それ最低!」



耳に飛んできた最低発言に、バッとナオくんから体を離した。

そんな私を見て、ナオくんがケラケラ笑う。



「男なんかみんな、そんなもんだって。俺の班の先輩なんかな、もっとすごいぞ」


「やめて聞きたくナイ」



なんだよもう! 心配した私がバカみたいじゃんか!

早く部屋に戻ってカレー食べよ!

最低最悪男に背を向けて、リビングへと歩き出す。


背後ではいまだにナオくんが笑っていて、なんだかすっごく腹が立った。

完全に私をコドモ扱いして、遊んでるもんなぁ。


ムカムカする気持ちがど真ん中にあって、だけどその端っこにある小さなモヤモヤの存在に気付く。

ドアノブに手をかけた時、ピタリと足を止めた。