危ナイ隣人

ナオくんの吐息が髪をくすぐる。

全身で感じる熱はちゃんとここにあって、彼がここで生きていることを確かに証明してくれた。



「ナオくんは……消防士なんだよね」


「一応な。どうせ似合わねえと思ったろ」


「今でも思ってるよ」


「オイ」



暗がりの中で、ナオくんが喉を鳴らす。

いつも通りの軽口に、軽口で返す“あたりまえ”。


だけど。



「すっごく、不安だった」



強くありたいと思うのに、弱音はガードにかからずするりと落ちた。



「あれが……ナオくんじゃなきゃいいって思った。やっぱりご飯食べられるようになったって、ふらっと帰ってきてくれないかなって」


「茜……?」


「だって、消防士って危険に身をさらすでしょ。怪我することだって、あるでしょ」



暗いから、顔が見えないから。

そんな言い訳ぜんぶ、なんの免罪符にもならないのに。



「死んじゃう可能性だって、なくはないわけでしょ……っ」



ナオくんのシャツを握る指先が震えていた。

自分でもこんなになる理由が、よくわかんなかった。


混乱する私の頭上で、ふっと空気が揺れる。



「なーに言ってんだよ。たかが隣人のオッサンが死んだところで、お前にとっちゃ大したことじゃねーだろ」



まるで赤ちゃんを宥めるみたいに、ナオくんが私の頭をぽんぽん叩く。