危ナイ隣人

そう、もう19時を過ぎている。

テレビの真上に掛けられた文字盤の黒い時計は、秒針が音を立てることなく、それでも確実に時を刻んでいる。



帰って、こないのかな。

どこかで彼を待って、期待して、その期待を潰してのくりかえし。


心の中で不安が見え隠れして、なかなかカレーを食べようって気にならない。

仮に口に入れたとしても、喉を通らないと思う。



『そろそろ私もご飯食べてくるね』


「わかった、いってらっしゃい。また明日ね」


『うん、また明日』



通話を切って、一瞬でぬくもりを失ったスマホをソファーに投げる。


あぁ、なんか……やだな。

ソファーの上で、昨日みたいに膝を抱き寄せて頭を埋める。


雨は上がったはずなのに、まとう空気は冷たくて、やっぱり寒い。

この大きな部屋は、1人で過ごすにはやっぱり広すぎるよ。


ぎゅっと閉じたまぶたの裏に、弾けるような笑顔が思い浮かぶ。

太陽みたいにあかるくて、見上げる姿はひまわりみたいにおおきくて、本当に、ほんとうに、大好きだった。

泣いてねだってようやく買ってもらったおもちゃより、かけっこ大会で手に入れたきんぴかのメダルより、自慢だった。



「おにいちゃん……」



瞳の奥が熱くなり涙が浮かびそうになって、グッと堪えたとき──


廊下の方から音が聞こえた。

ガチャっていう、鍵をあけたような、そんな音。