危ナイ隣人

そんな話は寝耳に水。

っていうより……。



「消防士は地方公務員だからな。異動つったって、うちの市内だけだぞ」


「そうなの!?」



私が盛大な勘違いしてただけだったの!?



「うそぉ……。てっきり私、どこか遠くに行っちゃうんだって」


「ないない。今よりちょっと遠くなるけど、余裕で通勤できる範囲」



そんな……。

いくら別れの季節にナイーブになってたからって……こんなマヌケな勘違い、ある?


恥ずかしいやら、だけどすごく嬉しいやらで、頭の中がぐちゃぐちゃだよ……。



唸りながら頭を抱えた私の膝に、大きな手のひらがぽんっと乗せられる。


ん、と短く促されて、私は恐る恐るその手を握った。



「俺の話、していいか?」


「……うん」



顔を上げると、穏やかに表情を緩めたナオくんと目が合う。


形の綺麗な唇が、薄く開いた。



「今回の異動は単なる異動じゃなくて、特別救助隊っていう、今より……まぁ、少し上の部署に行くための異動なんだ。

夏前に試験受けて、受かったら秋頃に訓練がある」


「特別救助隊……」


「あぁ。試験自体は今の署にいても受けられるんだけど、色々あってな。まだどこになるとかは言えないけど、異動の話が来たんだ」



ナオくんは一言一句、文言を選びながら話しているようだった。


私を安心させるためにと、振りかざしてはいけないカードは使わない。

ちゃらんぽらんに見えて、そういうところはしっかり弁えているこの人が、私は好きだ。