危ナイ隣人

「──お取込み中大変申し訳ないし、水を差すのは不本意なんだけど」



聞き覚えのある声が耳に届いた。


シャボン玉が弾けるようにハッとして、ナオくんの腕の陰から覗き見ると、そこには居心地の悪そうな本郷さんが立っていた。



……って、そうだ。ここ、消防署の前……!



公衆の面前だということを思い出し、慌てて飛び退く……けど、あちこちから視線を感じるのは気のせいじゃない、はずだ。残念ながら。


一気に恥ずかしくなった私をよそに、ナオくんは心底不機嫌そうな声で反応する。



「邪魔すんなよ千秋」


「随分な言い草だな。お前が投げ出した荷物、拾ってきてやったってのに」



やれやれと息を吐く本郷さんから、黒いリュックがナオくんに手渡される。


リュックのファスナーが少しだけ開いてるから、荷物を押し込みながら降りてきてたってところだろう。



ぱちりと目が合い小さく会釈した私を見て、本郷さんは目尻を下げた。

それからすぐに、ナオくんにニヤニヤ笑いを向ける。



「ひとまずよかったなぁ、直也。これで心置きなく帰れるじゃん」


「うるせ。お前こそ早く帰れよ、美奈ちゃんが待ってんだろ」


「はいはい。邪魔者は退散しますよー」



またね、と私に声を掛けて、本郷さんは駅とは別の方向に歩いて行った。



「…………」



再び2人になって、私は視線を足元に落とした。


顔を上げられない。ナオくんの顔が見られないんじゃなくて……周りの視線が全部私達に向いているように思えて、恥ずかしくて。