2人揃って、“しまった”なんて顔をして。



「茜。今の話、聞いて……」


「……異動って、どういうこと?」



異動。今のままじゃいられなくなる。

耳の中でこだまする、京香さんの声。


それってつまり……ナオくんと、離れ離れになるってことだよね……?



脳裏に、1年前の記憶が蘇る。


ナオくんとお兄ちゃんの繋がりを知ったあの日。

ナオくんは、私に背を向けて、私の前からいなくなった。



……やだ。あの時と同じなんて、やだよ。

私、頑張ったのに。ナオくんと一緒にいられるように、努力したのに。


これからも変わらず、ナオくんの隣にいたいと思ってるのに……ナオくんはまた、私を置いて行ってしまうの?



「あ……あのな、茜──」


「聞きたくないっ!」



ベンチから腰を浮かせて、私を嗜めようとしたナオくん。


彼の口から発せられる言葉を耳にするのが怖くて、私は両手で耳を塞いだ。



「茜ちゃん、あのね」


「嫌です! ナオくんと離れるなんて、そんなの絶対嫌ッ!」



目の前は真っ暗になって、頭は真っ白になって、気付けば頬を温かい何かが伝っていた。


なけなしの理性で落とした財布を拾い上げ、だけど、いきなり突きつけられた、この夢のような事実から一刻も早く逃れたくて、私は踵を返して寒空の下を駆け出した。



「茜!」


「茜ちゃん!」



静止する声は遥か遠く。

耳に届きはしていても、真っ白の頭の中では何の意味も持たない。