くしゃっと前髪を掻いた右手の下で、彼が力なく笑った。



「昔の知り合いに、俺のことそう呼ぶやつがいたなって。……ちょっと、びっくりしただけだ」



嫌とかじゃねぇんだけど、と、言葉のさいごに付け足される。



彼の弱ったような笑みを見て、私の中のオンナのカンがピンときた。


この人のことを「ナオ」って呼んでいたのは、きっと女の人だ。

昔の知り合いってことは……元カノか、それとも片想い相手か。

こんな反応するってことは、もしかしてまだ未練ある感じ? え、やだドラマみたいじゃーん!


……なーんて心の中で盛り上がりながらも、どこの誰かもわからない女性(ひと)に遠慮したりできる私じゃなかった。



「嫌じゃないなら、ナオくんって呼ぶけど。いい?」


「お好きにどーぞ。呼び方にこだわりとかねーし」


「あら。じゃあ、オジサンとかでもいいの?」


「もれなくお前の呼び名はAカップになるけど、それでもいいなら」



さっきの弱々しさはどこへやら、お隣さん──もといナオくんは、私の悪ノリを平然と跳ね返した。

返ってきた弾はミサイル級で、私の脳天を遠慮なしに撃ち抜く。