危ナイ隣人

実は、練習やリハーサルでもキスシーンだけは練習しなかった。

お互い恥ずかしくて、気まずくて、暗黙の了解のような感じでぶっつけ本番を選んだ。



どうか、どうか。


明日からの学校生活を、平穏に送れますように。

対処しなければならないような、面倒なことになりませんように!


心の中で叫びながらも、台詞をしっかりと声に乗せる。



「“……ローラ様。私は帰ってきました”」


「“……はい”」


「“私と、結婚していただけますか?”」



ここでローラは笑って頷き、口づけを交わす。


ローラは笑う。

そのはずだったのに。



「“……っ”」



……え?



「“こんな日が来るなんて、夢みたい……”」



ローラはその場にへたりこみ、両手で顔を覆っている。



待って。なに、このセリフ。


こんなシーン、私、知らないよ……?



「……いう……と?」


「……う……ったの?」



舞台袖からも困惑の声が聞こえる。


誰も、脚本にないこの展開を知らない。

ということは……これは、塚田くんのアドリブ……?



「“ロー、ラ……?”」


「“夢じゃないわよね? もう、どこかへ行ってしまうことはない?”」



ローラが顔を上げる。


塚田くんの真っ直ぐな瞳と視線が絡んだ時、形のいい唇が、


(かが)んで』


と微音声で私に訴えた。


かろうじて聞き取れた私は、慌てて、でも不自然にならないようにゆっくりと視線を落としていく。



そんな私を、塚田くんが見上げて──舞台とは反対側の腕を、少し強引に引かれた。

客席からは見えないよう、まるで計算し尽くしたかのような手つきで。



そして、私の唇は何かに触れた。



「……っ!?」