危ナイ隣人

「べつに。つーか、無理して敬語使わなくていいし」


「や、さすがにそれは、」


「さっきからポロポロ素が出てんじゃねぇか。変にかしこまられる方が気持ち悪いんだよ」



気持ち悪いって……。さっきから思ってたけど、この人、言葉が全部ど直球なんだよなぁ。しかも口悪いし。


悪気があるのかはわかんないけど、悪気なんてあってたまるか。



「……わかったよ。でも、私も一つだけ」


「何?」


「お前おまえって呼ばれたくない。呼ぶならちゃんと、名前で呼んで」



自分が逃げ出すことのないよう、真っ直ぐに目を見据えて言う。


お隣さんの瞳はどこまでも漆黒で、逆に吸い込まれてしまうんじゃないかとさえ思った。



「名前でって……ガキかよ」



なんて返ってくるだろう。

構えていた私に帰ってきたのは、予想外の笑みだった。


ククッと喉を鳴らして、おかしそうに笑っている。



「じゃ、名前なんてーの? 知らないと呼べない」


「御山です」


「知ってる。そうじゃなくて、下の名前」




びっくりして、思わず声が詰まった。


まさか下の名前で呼ばれるだなんて思ってなかったし。


少し戸惑った私を前にお隣さんは余裕綽々な様子で、私の言葉を待っている。