危ナイ隣人

『別に、そんな薄情じゃねーし俺』



小さくて、早口だった。

でも、紡がれた声はしっかり私達の耳に届いた。



『聞いた? 今の』


『聞いた聞いた! 直也が珍しく素直だったね』


『茶化すな!』



拗ねたようにぷいっとそっぽ向いた耳が真っ赤で、私と圭太はまた笑っちゃって。



私達ね、嬉しかったの。


知り合った頃は死んだ魚のような目をしていたあいつが、色んな表情を見せてくれるようになったこと。

直也の中で、たぶん少しだけ、大事だって思ってもらえる存在になれたこと。


一緒に過ごした時間はそう長くないけど、揺るぎないんだって胸を張って言えるこの関係が、嬉しかった。



『卒業、おめでとう。それから……ありがとな』



不本意そうに、それでも私達に向き直った直也の低い声が、麗らかな日差しの中で静かに響く。


今度はもう、私も圭太も茶化さなかった。



『俺、目標出来たんだ』


『目標?』


『あぁ。親の言いなりになってることが息苦しくて、期待の逆をいくことで何とかバランスを保ってたけど……それももう、飽きたし』



2月半ばの風はまだ冷たい。


だけど、春の訪れを予感させる柔らかさも確かに含まれていた。



『夢とか、そういう立派なもんはまだないけどさ。今まで以上に勉強して、あいつらに文句なんか言わせないくらいの結果出して……そんで、圭太』



直也の人差し指が圭太に向けられる。


予期していなかったのか、目を丸くした圭太に今度は直也が不敵に笑った。