スポーツだって万能で、私の物心がつく前からずっとサッカーをしてた。

お兄ちゃんの部屋にはいつもサッカーボールが転がってたし、クローゼットの取っ手には自分のユニフォームと応援しているチームのユニフォームがかけられてたっけ。

お父さんとお母さんと一緒に見に行った試合で、ゴールに繋がるアシストをして、みんなで抱き合って喜ぶお兄ちゃんは輝いて見えた。

──京香さんも、サッカー部だったって言ってた。



私が何か困っていたら、お兄ちゃんは真っ先に助けてくれた。

それから、大丈夫だって言うように私の頭を大きな手で撫でてくれたんだ。

──出会った時や私が強がっている時に、ナオくんがそうしてくれたように。



家に帰ってきたお兄ちゃんから、お兄ちゃんのものでない香りがすることがあった。

鼻に抜けるような、爽やかな匂い。

今と昔が重なるあの香りは──





「ん……茜……?」



視界の端で影が動いて、肩が跳ねた。


そこでようやく、自分が完全に動きを停止していたことを理解する。



「あれ……なんでお前がここに……?」



私が寝室にいる状況を飲み込めていないのか、のそのそと起き上がるナオくんの声は心なしか甘い。



そうだよ、疲れてたんだもんね。


朝まで仕事だったのに、少しの仮眠だけで私に付き合ってくれた。

お墓参りに。何の接点もない人なのに。


私との約束のために、わざわざ休みを調整してくれた。